北アルプスの秘境をめぐる真夏の大冒険ー雲ノ平・高天原温泉テント泊の旅(3日目:三俣山荘ー三俣蓮華岳ー黒部五郎岳ー北ノ俣岳ー太郎平小屋ー折立)ー

*この記事は3日目の記事になります。計画を大幅に変更した中で最終日を迎えます。行動時間15時間の戦いが始まります。これまでの記事についてはこちらからご確認いただけますと幸いです。

北アルプスの秘境をめぐる真夏の大冒険ー雲ノ平・高天原温泉テント泊の旅(1日目:折立ー雲ノ平)ー
北アルプスの秘境をめぐる真夏の大冒険ー雲ノ平・高天原温泉テント泊の旅(2日目:雲ノ平ー高天原温泉ー三俣山荘)ー

【山行計画】

・日時:2020年7月17日ー7月19日

・メンバー:二名

・行程

└ 1日目:折立ー太郎平小屋ー薬師沢小屋ー雲ノ平キャンプ場/予想行動時間:約10時間

└ 2日目:雲ノ平キャンプ場ー高天原温泉ー鷲羽岳ー三俣蓮華岳ー黒部五郎小舎/予想行動時間:約11時間

    →雲ノ平キャンプ場ー高天原温泉ー三俣山荘

└ 3日目:黒部五郎小屋ー北ノ俣岳ー太郎平小屋ー折立着/予想行動時間:9時間

    → 三俣山荘ー三俣蓮華岳ー黒部五郎岳ー北ノ俣岳ー太郎平小屋ー折立

【三日目の記録】

前日の遅れを取り戻し、バスに間に合わせるために、この日は夜の22時に起きテントを片付け先を急ぎます(もはやまだ二日目ですし、同じ日なのですね)。流石の私もこの時間に起きて行動するナイトハイクは初めてなのでいささか緊張しつつ、高揚感にも包まれていました。休んだことで多少体調は良くなっていました。まずは黒部五郎小舎を目指します。コースタイムは2時間になります。ただ写真を撮っている余裕はなくほぼ写真はありません。

三俣山荘から黒部五郎小舎を目指すルートは二種類あります。一つは三俣蓮華岳を迂回して一気に目指すルート。もう一つが三俣蓮華岳を経由して進むルートになります。当然後者の方が時間がかかるので、私たちは前者を選ぶことにしました。ただ、夏の時期でも残雪が残っており、雪渓がある可能性があると情報がありました。今回は雪対策はしていないのでもし目の前に残雪が現れた場合は引き返すしかありません。三俣山荘のスタッフの方に確認したところ、まだ入ったばかりで確認していないからわからないとのことでした。であればとりあえず行ってみるしかないかということで向かいます。

真っ暗闇の中を30分ほど進むと、いきなり雪の壁が現れました。この時に感じた言いようのない恐ろしい気持ちは一年たった今でも明確に覚えています。これが恐怖なんだろうという感覚です。正確には垂直に壁があったわけではないのですが視界が広がる限り一面真っ白な雪で覆われており、私たちの行手を完全に阻んでいました。ここを登っていくことは到底できない。無理だ。引き換えそう。友人と相談し、急いで戻ります。ここで約1時間ほど時間をロスしてしまいました。改めて分岐点に戻り、三俣蓮華岳を目指します。霧で視界が悪く、かつ夜ということもあって、最後の山頂の手前で二人とも道をロストしてしまい、道なき道を登りました。私は気づいたら斜度60度にもあるような崖を這い上がっていました。アドレナリンが全面に出て、理性を失い冷静な判断ができなくなり、闘争本能だけで動いていたんだと思います。一歩間違えば滑落し、死んでいたかもしれないと登りきってきたルートを振り返って愕然としました。

なんとか山頂まで登り切ることができ、0時30分に三俣蓮華岳に登頂します。見ての通り視界はほぼゼロです。

次は黒部五郎小舎を目指します。コースタイムだと2時間になります。何時についたのかは残念ながら覚えていません。無我夢中で進んでようやく到着したことだけは覚えています。そして、黒部五郎小舎から黒部五郎岳へ向かう道はとんでもない悪路でした。道標に従って進んでいたのは間違い無いのですが、道は切り開かれておらずジャングルのような感じで、雨水なのか雪解け水なのかはわかりませんが、道は滝のようになっていて、今までに経験したことがないような道でした。おそらく山開きされる前だったので人が入っておらず道が整っていなかったということなのだと思いますが、今となっては自分たちが進んだ道が本当に正しかったのかは全くわかりません。ただ、なんとかちゃんとした道のような場所に辿りつくことはできました。

こんな景色が広がったと思いきや、こんな地獄のような景色に様変わりします。山の天気は変わりやすい。

黒部五郎岳の山頂には5時50分に到着します。

バスの出発時刻は11時45分なので、残り約6時間。これは間に合わないかもしれないなとこの時初めて思いました。元気な友人だけでも先に行ってもらおう、あまりにも申し訳ない、と考え友人には先に行ってもらいました。ですのでここから単独行になります。次の目的地は北ノ俣岳になります。コースタイムで2時間50分の道のりです。標高差は約200mになります。

晴れたり曇ったりを交互に繰り返したのち、今度は一気に快晴になってきました。振り返ってみたときに「結構下ってきたもんだなあ。よく頑張ったなあ」と思うことが多いのは山あるあるですよね?黒部五郎があんなに遠くに見えます。ここら辺で初めて他の登山客の方と遭遇しました。

9時に北ノ俣岳に到着。結局3時間20分かかってしまいました。この頃には靴の中をみるのが恐ろしいくらいに違和感を覚え始めていました。しかし進まない訳にはいかないので歩を進めます。次は太郎平小屋が目的地です。コースタイムは1時間30分になります。

実はここら辺から別の問題に直面し始めました。それは水不足です。今回は最大4ℓ持てるようにしていて、3日目の出発時点では持っていたのですが、日がでてくるにつれて消費量が多くなり、気づいたら残り200mlを切っていました。さらに日照りは強くなり始め、このままでは持たないのではないかとの恐怖が高まってきます。途中の山小屋や水場で補給できなかったのかという点についてですが、山小屋についてはオープンしていなくとも水は汲めたようにも記憶していますし、汲めなかった場所もあったように思います。水場については急いでいたことと、暗闇の中であったこともあり、組むという発想自体を持てていませんでした。

今回の件で山小屋頼みで水分計画を立てるのは危険という教訓を得ました。山開きの前の時期については特に。そして単独行の場合こういったリスクもあるのかと学びになりました。いざというときに単独行だと命を落とす危険が一気に高まるということを身をもって学びました。ようやく太郎平小屋が見えてきます。この辺りで水は完全に底をついてしまいまいた。

あと少しだしなんとかなるだろうと思っていたですが、意外と遠い。まだつかないのか、まだつかないのかと焦りを感じているうちに徐々に喉の渇きが強まってきました。進もうと思えば進めるだろうけれど、もしかすると途中で倒れてしまうかもしれない。その可能性があるのであれば、恥を忍んで次通りかかった方に水を恵んでもらおうと決意しました。幸いこの辺りまで来ると登山客の方もちらほらとすれ違うようになってきていました。

そして男性二名、女性一名の三人組のパーティーの方があちらからやっていたので、「少しで良いのでお水を分けてもらえませんか」と頭を下げてお願いしました。様子を見てすぐに事情を察してくださり、一名の方が嫌な顔一つせずにたくさん水を分けてくださいました。しかも「我々はそんな遠くまで行くわけではないから」といってペットボトルを一本丸ごと譲ってくださいました。

涙が出ること嬉しかった。そして、自分の計画性の無さを恥じるとともにこれは美談で済ましてはいけないと心に固く誓いました。パーティの皆様に何度もお礼を伝え、先に進みます。あと少し。

そして、10時30分に太郎平小屋に到着しました。この区間はほぼコースタイム通りで到着できました。ここで大量にこれでもかというくらい水分を補給しました。山小屋があることによって自分はどれだけ助けられていて、いざというときのセーフティネットになってくださっているのかとこの時、そのありがたさを強く感じました。もうバスに間に合わないことは明確だったので、パートナーへ連絡をし、最寄りの駅まで句ためにタクシーも手配しました。パートナーは無事に下山できたようで本当によかった。

さて、まだゴールではなくここから約3時間下り続けます。写真は一枚も撮っていません。ここでも一つ人の優しさに触れたのでそのエピソードを共有させてください。

初日からずっと靴の中が濡れたままで歩き続けており、かつ替えの靴下も用意していなかったのでもちろん乾くことなんてなく、靴の中は最悪な状況でした。中をみるのが恐ろしくなんの処置もせずに歩き続けていたら、おそらく自分でも気づかないうちに不自然な歩き方になっていたのだと思います。

すれ違ったおじさま・おばさまの10人ほどの登山パーティーの方が「兄さん、足痛いんか!」と呼び止めてくださりました。流石にもう迷惑はかけられない」と思い、「いえ、大丈夫です。。」と答えたのですが、「いいから見せてみぃ!」と引き止めてくださいました。そしたらお言葉に甘えてしまおうかと思い、言われるがままに靴を脱ぎ、靴下を脱ぎお見せしたところ、「うわ、これは酷い・・・すぐに処置してあげよう」という話になり、消毒やらテーピングやらあれよあれよという間に処置してくださいました。聞くところによると、富山か石川かの医療従事者?の方らしく、「わしらがその道の人間でよかったなあ。感謝せえよう」と笑ってくださいました。

最終的には水やら栄養ドリンクやら、替えの靴下やら、靴の中敷きやらいろんなものを譲っていただいてしまいました。お礼したいからと連絡先を聞いたものの、「いいからいいから、気をつけて帰れよー」と皆さんで見送ってくださいました。ただただありがたい。そして優しさが嬉しかった。

そんな経験もしつつ13時30分過ぎくらいに折立に辿り着きました。無事下山できてよかった。伝えていたよりも30分以上遅くなってしまったものの、嫌な顔一つせずに待っていたタクシーの運転手さんにも感謝です。最寄り駅まで送っていただき、そこから電車で富山駅まで向かい、たくさんお土産を買って、ラーメンを食べて新幹線で帰路につきました。

これで今回の旅は幕を閉じます。批判も覚悟した上で自分の反省のために、そして少しでもどなたかの参考になればと思い、あったことを赤裸々に記載しました。ちなみに足については爪が計4枚剥がれ、足の裏から踵まで全て皮が向けてしまい、また菌が入り込んだことで右足全体が一週間ほどかなり腫れ上がってしまい、このまま足を切断することになるのではないかと恐怖と隣り合わせの数日間を過ごしました。幸いその後腫れは自然と引いていき、爪についても剥がれ癖がついているということもあり特に日常生活には支障出ませんでした。親指の爪は約一年かけ完全に生え変わってくれました。

今回の旅では薬師沢小屋での黒部源流、雲ノ平、高天原温泉をはじめとして自然の雄大さ、荘厳さ、美しさ、力強さを思う存分愉しむことができ、まさしく自分が成し遂げたかった冒険をすることができました。しかし一方で、己の計画性の無さ、事前準備不足、知識不足、体力不足を強く何度も実感し反省しました。そして、困ったときに手を差し伸べてくださった方々の優しさや利他の精神に強く心を動かされ、感動しました。「ただ山に登って下山した」というだけではない何かもっと人間として大切なことをこの旅では経験できたように思います。

最後に、下山直後にまとめた生々しい反省を記載し本稿を締めくくりたいと思います。ここまで読んでくださりありがとうございました。皆様の旅が素晴らしきものになりますように。安全で怪我のない旅となりますように。

・自分の力を過信しない。技術的にも体力的にも今後はコースタイム通りで計画を立てる。

・靴を濡らしたらダメ。濡らしてしまった場合、水分を取る工夫をする。

・靴下も同じく。万が一を考えて替えを用意する。

・持ち物が濡れてしまうと体の冷えが一気に進み体調の悪化につながる。

・飯について、お湯がなくともカロリーと栄養を摂取できるものを用意するべき。お湯沸かすのは手間。

・水分については多いと思うくらい用意しておく。ただの水ばかりではなくて、スポーツドリンクなども。

2020年7月19日の山行日誌より