北アルプスの秘境をめぐる真夏の大冒険ー雲ノ平・高天原温泉テント泊の旅(1日目:折立ー雲ノ平)ー

*昨年2020年の山行を一年越しで記事にしているため最新の情報でない場合がありますので、ご注意くださいませ。

Contents

【プロローグ】

2016年、登山をはじめたての時に友人に連れて行かれ、何も知らないままに裏銀座を歩くことになりました。経験が浅かった私は恥ずかしながらなんの知識も持ち合わせておらず、それはそれは過酷な旅でした。ただその時に見た景色、身体への負荷を比例するかのように増えていく精神的満足感が忘れられずに、知らず知らずのうちに私は登山にのめり込んでいきました。

その山行の際に出会った方がこんなことを教えてくれました。

ここ(水晶岳と赤牛岳間)から下っていくと、誰もが憧れる地上最後の楽園が広がっている。

それが雲ノ平だ。

近くには日本屈指の秘湯である高天原温泉もある。

いつか行ってみるんだな

by 名もなき旅人

当時本当に倒れそうになっていた私は意識朦朧となりながら歩いていて、記憶も一部欠損しているのですが、この言葉だけは明確に覚えていて、いつか絶対に行ってやろうと心に誓っていたのでした。

それから多くの山行をこなし山についての知識も経験もそれなりについてきて、信頼できるパートナーとも巡り会えたので、今こそは憧れの地に旅立とうじゃないか!と2020年ついに計画を実行するに至りました。しかし、先に結論をお伝えすると目的は果たせたものの、私の準備不足もあり、またしても危険な旅となってしまいました。事前準備の大切さ、無理な計画を立てないこと、そして己の力を過信しないこと。この三つの教訓を皆様にお伝えするとともに、雲ノ平・高天原温泉の素晴らしさを表現できればとの思いでこの記事を書きます。

【山行計画】

・日時:2020年7月17日ー7月19日

・メンバー:二名

・行程

└ 1日目:折立ー太郎平小屋ー薬師沢小屋ー雲ノ平キャンプ場/予想行動時間:約10時間

└ 2日目:雲ノ平キャンプ場ー高天原温泉ー鷲羽岳ー三俣蓮華岳ー黒部五郎小屋/予想行動時間:約11時間

└ 3日目:黒部五郎小屋ー北ノ俣岳ー太郎平小屋ー折立着/予想行動時間:9時間

【1日目】

この日をどれだけ待ち侘びたことか!この頃は、「自分がやりたいことは山頂をハントすることではなくて、トレイルを歩くことであり、そして何よりも旅を楽しみ、冒険をすることなんだ」ということに気づき始めた頃で、まさに今回の旅は自分のやりたい冒険だったので、本当に楽しみにしていました。

転職したばかりだったので、余裕持って過ごせるはずだったのですが、結局バタバタしてしまう有様。忙しなく家を後にし、22時30分に新宿の都庁前下に集合し、23時発のバスに乗ります。

熟睡はできなかったものの最低限の休息は取り、6時30分に折立に到着します。

7時に行動開始します。まずは太郎平小屋まで向かいます。コースタイムで5時間の道のりです。こんな感じの道が続きます。

歩き始めて1時間ほどでようやく開けてきました。奥に見えるのは有峰湖です。

黙々と歩き続けます。それにしてもなんて雄大な景色なんだろうか。遠くにようやく小屋らしきものが見えてきます。

まだまだあります。この時はまだ程よく晴れてました。

そして、10時に太郎平小屋に到着します。コースタイムを大幅に短縮して登り始めてから3時間での到着です。この時点では非常に快調な滑り出しです。

まだまだ先は長いので20分ほど休憩し出発します。次の目的地は薬師沢小屋です。標準コースタイムだと2時間の道のりです。ここら辺から徐々に秘境感が出てきます。

自然の静寂とざわめきを独り占めできました(正確には二人占め)。それにしても水の綺麗なこと。沢の轟音にまずは気付き、水の流れが視界に入ってきた瞬間に思わず「わーお!」と叫んでしまいました。それほどこの出会いは衝撃的でした。この先にさらに素晴らしい光景が広がっているとはこの時はまだ知る由もありません。

そして12時10分薬師沢小屋に到着しました。太郎平小屋から約二時間なのでほどコースタイム通りです。ここは本当にとんでもない場所でした。よくここに小屋を立てたなという感じです。ここは黒部源流の交わるところに建てられた小屋で、釣りを楽しむために訪れる人も多いそうです。先客がいらっしゃったので聞いてみるとここのイワナは手掴みでも捕まえられるとのことでした。それだけ量が多いということなのか、それともまったりしたイワナが多いのは真相は不明ですが、今度はここでゆっくり過ごす旅もいいなと思いました。

ここでは昼休憩も含めて50分ほどじっくり時間をとり、13時に次目的地である雲ノ平へ向けて出発します。標準コースタイムは3時間20分ほどになります。ここから高天原まで沢沿いを登っていくこともできるのですが、今回はまずは雲ノ平を目指します。これまでの疲れも徐々にできてきており、ここの登りはかなりしんどかった。一気に550m程を上がります。

直登を登り切ると、アラスカ庭園とか奥日本庭園があるのですが、もうそんなものを気にしている余裕もなく、黙々と進みます。そして、見ての通り曇ってきました。そして雨も降ってきました。このあたりでのミスが後々まで大きく影響することになります。レインウェアは着ていたものの、靴とレインウェアの間に空間ができており、そこから雨水がどんどん靴の中に入り込んで行きました。後でこのことを強く後悔するとは露知らず歩き続けます。

15時45分に雲ノ平山荘に到着します。私はこの時期は人気シーズンだし登山客で賑わっていて、テントも張れないくらいなんだろうと思い込んでいたのですが、薬師沢小屋からここまで誰一人として会うことがなく、そして雲ノ平にも誰一人として人がいませんでした。山荘の中に入ってみると、なんだか様子がおかしい。「すいませーん」と声を出してみると、怪訝そうな顔をした若い女性たちがそろそろ出てきてくれました。聞くところによるとまだ山開きはされておらず、山小屋もオープンしていないということです。来週からが正式なオープンらしい。これは完全に事前の情報収集不足でした。テント場も水回りなどまだ整備していないけれど、使っていただく分には構わないし、オープンしていない以上はお金も取れないので好きに使ってくださいと仰っていただきました。今度はぜひ山荘が空いている時期に訪れたいと思います。

山荘からテント場までは約30分ほどです。結構ありますのでご注意を。雨が強くなってきます。テント場も誰もおらず予期しないで雲ノ平を独り占めできることになりました。こんな贅沢があっていいのだろうか。

ただ、雨が降っている中でテントを設営しなければならないこともあり、感動している暇はありません。これも準備不足の一つなのですが、今回持参したテントは事前に試し張りができておらずぶっつけ本番での設営でした。苦もなく張れるだろうと思っていたですが、この想定は大甘でした。これまでの疲れと雨によって手先足先を中心に冷やしてしまったこともあり、頭の働きも万全ではなく、設営にかなり時間がかかってしまいました。この間に荷物もどんどん濡れ、自分自身も濡れていき、かなりまずい状態になっていきます。なんとか設営を終え、荷物と身体をテントに押し込んだもののどうにも体が温まらず、一気にエネルギーを失っていきます。

今すぐにでも寝たいという状況でしたが、ここで無理してでも食べないとダメだと身体に鞭打ち、お湯を沸かしフリーズドライの食事を作り、詰め込むようにして食事を取りました。それにしても身体が寒い。さらに心配なのは、濡らしてしまった衣服でした。今回は軽量化のために替えの服を一着も持ってきておらず、靴下も替えを用意していませんでした。靴下については、ハイマツなどから滴る水が少しずつ靴の中にも入ってきてしまい、濡らしてしまっていました。これはまずいかも知れない。今自の上に覆い被さっている雨雲のように、黒々とした重々しい気持ちになりつつも、今日1日で出会えた景色の美しさに満足感を覚えながら、夜を迎え、眠りの世界に入っていきます。

ここまで読んでくださりありがとうございます。二日目の記事についてはこちらからご覧くださいませ。

北アルプスの秘境をめぐる真夏の大冒険ー雲ノ平・高天原温泉テント泊の旅(2日目:雲ノ平ー高天原温泉ー三俣山荘)ー